ひとり部活動記録

文章書いたり、筋トレしたり、自転車漕いだり、山登ったり、基本はひとり。

【創作小説】昔書いたとある少年たちの話

僕は今、銃を持った男たちに追われている。僕がお母さんの言いつけを守らなかったからだ。町中を逃げているようではどのみち見つかるので、そのまま住宅街から山道に入った。それでも男たちは諦める様子もなく、さっきも必死に逃げる僕の真横の木の幹がショットガンの銃弾で吹き飛んだばかりだ。お母さんはどうしているんだろう。僕のせいでお母さんまで怒られるんじゃないだろうか。僕は自分のことよりもそのことを心配した。

男たちの足跡が少し離れたので、僕は道の横に流れている水に口をつける。まだ春が来て間もないので、川の水は雪解け水を含んでいてとても冷たい。火照った体がスーッと冷えていくのを感じる。

その時だった。対岸にポツンと一人の男の子が立っていたのだ。背丈は僕よりずいぶん小さいけれど、きっとあまり年は変わらないだろう。彼もひょっとすると追手かもしれない。僕はいつでも逃げられる体勢になって、じっと男の子をにらんだ。

「大丈夫だよ、僕は君の味方さ」

そんな僕に男の子は優しい声でそう言って、すっと手招きをする。

「こっちだ。こっちに来れば奴らには見つからない」

でも、と僕はしり込みをする。たった今見知った相手を、こんな状況で信じ切れるわけがない。ただ、彼が嘘をついているようにも見えない。小さな瞳は真っ直ぐ僕を見つめていて、差しのべられた手にも何の迷いもない。

どうしようかと迷っていると、木々に反響して男たちの怒号が聞こえてきた。こうなったら一か八かしかない。僕は脚が濡れるのも気にせず、対岸の男の子のもとへと駆け寄った。

「よかった、信じてくれて。僕はケージっていうんだ。さあ早く!」

彼はまるでこの山が自分の家の中かのように、何の迷いもなくずんずんと進んでいく。僕も小さいころからこの山を駆け回ってきたけれど、彼の歩みは男たちに見つからない場所を正確に知っているかのように、確信に満ちている。

でもきっと、僕がお母さんの言いつけを守らなかったからだ。ケージが進んだ先の道は、1週間ほど前の嵐のせいで崩れていて、僕たちは立ち往生せざるを得なかった。後ろからはまるで僕の場所がわかるかのように男たちの足音が近づいてくる。もうだめだ。そう思った時、ケージが崩れた斜面の下にある洞窟を見つけた。

「ここだ!ここに入ればばれないよ!」

僕にはそうは思えなかった。もうなんだか、ダメだ、そんな感じがする。ただあまりにもケージが必死に手招きをするので、僕は洞窟に入ろうとする。しかしその時だった。

「いたぞ!子供を襲おうとしてる!」

僕を見つけた男たちのうちの一人がさっと銃を構える。馬鹿な!そんな距離からショットガンを撃てばケージに当たってしまう!僕はとっさに彼を突き飛ばした。人間の子供の体への加減がわからないから怪我をしてしまったかもしれない。でも散弾銃よりはマシだろう。

ズガアン!!

大きな衝撃が僕の胸のあたりを襲う。前脚の感覚も後ろ脚の感覚もなくなっていく。ふと見ると、気を失ったのかケージは横に倒れたまま動かない。大きな怪我でなければいいんだけれど。

「こいつ、子供を食べようとでもしたのか」

憎しみのこもった声でハンターはそういうと、僕のこめかみに銃口を突き付けた。

お母さんの言うとおりだった。今の人間たちは僕たち熊をただ殺すだけ。昔のように丁寧には殺してくれない。頭に散弾銃を突き付けるなんてことは、絶対にしなかった人間はもういない。だから人里には決して出てはいけない、お母さんはそういったんだ。

でも、美味しそうなご飯のにおいがしたんだ。

お腹がとっても減っていたんだ。

だから、僕は。

お母さん、ごめんなさい。お母さん、ごめんなさい。泣き出しそうになりながらハンターの男の目を見ると、やはりそこには憎しみの色しか見えなかった。どうか、あのケージは、ケージだけはこんな目をする大人になりませんように。

僕はそう願って、目を閉じた。